| |
正月三日、できたばかりの友人を初詣に連れて行こうと張り切って家を出た。 年末最後の講義のあと二人だけのささやかな忘年会の席で、帰省はしないと漏らしていたからだ。 知り合って半年経てば、学生同士の一般的な友人関係としては〈できたばかり〉という表現はおかしいだろうが、 火村に関してはそう言いたくなる。誘って断られたことはないし、しゃべり始めれば違和感はない。 興に乗れば滔滔と一説ぶつことすらある。しかし別れた直後に、次誘ってもええのかなと感じるのだ。 打ち解けていない、というのとは違う。火村は私の、私は火村の友人だ、と胸を張って言い切れないのだ。 私は、この心持ちをぴたりと言い表す語彙を持たない。 ちょうど玄関先を掃いていた大家さんに招き入れられ、まっすぐ二階に上がる。火村は、横文字の本を読みながら 自室でコタツにあたっていた。事前に電話もせず訪問したのだから、思えば乱暴な話だ。思いついたのが二日の夜で 家を出たのはまだ薄暗い時間だったから、共用電話にかけられなかったのだ仕方ない、と自己弁護する。火村は、 連絡なしの訪問についても予定を確認せずに引っ張り出したことについても、何も言わずについて来た。 この正月は、特に冷え込んでいる。晴れ着を着慣れぬお嬢さん方もケープだけでは寒いとみえて、 彼氏のものと思われるダウンジャケットを振り袖の上に羽織ったりしている。ちなみに、晴れ着を着ている 女の子はほぼ百%カップルの片割れだからして、そういう流れが自然なのである。 私同様正月三日に彼女を伴って初詣に行く甲斐性がない我が盟友・火村英生も、一張羅の革ジャンでは さすがに凍えるらしく着ぶくれし、仕上げに年配の女性物らしいケープでぐるぐる巻きになっている。 大家さんの持ち物なのかもしれない。ちょこんと覗いている鼻の頭が真っ赤だ。 京都に住んでいるのにどこにもお参りせえへんのは宝の持ち腐れやと強引に連れ出したはいいが、目的地を 決めていなかった。私自身、京都で生まれ育ったのではないから穴場を知っているわけではない。下宿を出る前に 大家さんに訊いてみればよかったのだが、たっぷり十五分も歩いた今となってはアフターフェスティバル。 「なあ、どこか行きたい神社あるか」京都で過ごしている総時間を較べたら火村と私はどっこいどっこいだろうから、 意見を訊いてみる。行き当たりばったりだが、いいのだ。時間はたっぷりあるのだし。 火村は斜め上の虚空を眺めた後、申し訳なさそうに答えた。 「すまん、あまり詳しくないんだ。神様は信じてないから」 社交の場でのタブーは、言わずと知れた金、宗教、政治の話題だ。しかし、八百万の神を擁する日本に 生まれ育った私である。神社仏閣について宗教と認識している同年代の人間を初めて見て、窮地に陥った。 行き先不明とはいえ随分歩いたから、体は少し温まってきている。しかし彼の宗教観について掘り下げるには、 寒風吹きすさぶ道端というのはやや不適切なロケーションであろう。そして、詳細はわからないものの神様を 信じていないと聞いてしまったら、このまま初詣を強行するのもためらわれる。お参りだと分かっていて、 本人がのこのこ付いてきたのだとしても。 立ち止まっていたら、指先が冷えてきた。はあ、と息で手を温めた時に反射的に少し上を見たら、 プラネタリウムの文字。そういえば、小さい頃よく星を見たという話はちらりと聞いたな、と思い出す。 「年頭に宇宙に思いを馳せる、ちゅーことで、星でも見よか」 火村は、うん、と頷いて鼻水をすすった。
併設されている映画館は押すな押すなの大賑わいだが、プラネタリウムは五分の入りというところだ。 私たちは重装備を解き、特等席についた。 「君、星に詳しいんか」 「詳しいという程でもない」鼻をかむ。「小さい頃に、ただ見てただけだから」 そう言われてしまうと、話の接ぎ穂がない。「でも、少しは分かるやろ」 火村は、入場料と引き替えにもらったパンフレットを取り出した。表紙には、バケツをひっくり返した ような星々が描かれている。適当に描かれてなくて本物なんやなと思うと、敬虔な気持ちが湧いてくるようだ。 初詣代わりにはぴったりかもしれない。 「これが夏に見える星空だから、これがベガ、アルタイル、デネブ」 「夏の大三角か。写真や絵だと、星座に線が引かれてたりしてイマイチやけど、これはええな」 火村は、首を傾げた。 「それもそうだけど、ベガとアルタイルなんて、線で繋がれてると赤い糸みたいでちょっといいじゃないか」 思わず、まじまじと顔を覗き込む。 私の反応で、柄にもないことを言ったと気づいたのだろう、火村は耳を赤くして黙り込んだ。 神様を信じていないと言ったその口で、運命の赤い糸をいいと言う。少々矛盾しているけれど、 両方とも紛うことなく火村の言葉である。 今まで、私のまわりにはいなかったタイプだ。昨年の春知り合ってからは夢中になって、 彼以外の友人たちには付き合いが悪いと言われるほど、共に時間を過ごした。 しかし、まだまだケーススタディが足りないのだろうと思っておくことにする。 積み重ねていけば、いつか、彼は私の友人ですと自信たっぷりに言える日が来るのだろうか。
【診断メーカーの恋愛お題「昼のプラネタリウム」「恋する」「糸」をお借りしました。 http://shindanmaker.com/28927 】 **************** AA-search様の2013お年賀企画に、再び参加させて頂きました。 公開が1月末までになったので、ギリギリ投稿でも少しは皆様のお目にとまるのでしょうか。 管理人さま、本当にギリギリ申し訳ありません!お手数おかけします。 そして、素晴らしい企画をありがとうございます。 今年もよろしくお願い致します。 130115大嶋貢 Copyright (C) 2013 OHSHIMA Mitugu. All Rights Reserved. http://happyeyes.jp/
GREETING/CONTENTS SWEET ROOM BLOG BBS STAMP CARD MAIL OFFLINE LINK | ||