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 毎年、二月十四日は早寝する。

 そして、二月十五日は午前中早く(と言っても九時頃)に起きることにしている。

 東京の珀友社から宅配便が届くためだ。ありがたくも、読者の皆さんから贈られた

チョコレートを片桐が即日発送して下さるのだ。東京大阪間であれば、宅配便は

夜発送しても午前中に届く。便利な時代になったものだ。何も午前中指定でなくてもと

思うのだが、心のこもったプレゼントを一刻も早くお届けしたくて、とは片桐自身の言。

 毎年、果物のチョコレートがけや手作りケーキなど生ものも一定数含まれているから、

実のところ保管管理の問題があるのではないかと睨んでいる。分類して生ものは

編集部で消費して下さってもと申し出たこともあったが、そんな横領みたいなことは

できませんと突っぱねられた。そもそも、全てプレゼント包装されているから、

外見から中身が何なのかは分かりにくいのだ。

 作家が、編集部から送られてきた消費期限切れの菓子類を食べて食中毒になったら

締まらない。かつ、食品類を全て受け取り拒否したり破棄したりするほど、アイドルの

おっかけ並みに思い詰めたファンがいるわけでもない。……多分。

 というわけで、自分で取捨選択して下さいとばかりに、バレンタイン当日届きたて

ほやほやのプレゼントが転送されてくるのだ。年中絶賛受付しているファンレターは

だいたい二ヶ月分をまとめて送ってくれているのだが、これほどのボリュームはない。

少々複雑な気持ちである。

 チョコだろうが手紙だろうが、同じく自分宛のファンレターだろうと思うかもしれないが、

デリケートな(私にとっては、だが)事情があるのだ。

 

 今年も、宅配便のお兄さんは勤勉さを発揮し、九時ぴったりにチャイムを鳴らした。

珍しく午前中指定なので早めに持って来ました、とニコニコするのに愛想笑いを

返し、そのままリビングで箱を開ける。

 一番上の包みをひとつ取り上げると、案の定だ。

 『江神二郎様』。

 もうひとつ。----『江神二郎様』。なにくそ、もうひとつ。『江神二郎様』。

同々々……。

 いまひとつ盛り上がらない理由は、これだ。

 もちろん、彼は私が書いた推理小説の探偵であり、生み出したキャラクターだ。

ということは、結局は私自身宛のチョコレートであるとは言えるのだが、

若干割り切れないものを感じることを許して頂きたい。

 とりあえず、底までひっくり返して全部の包みを簡単にチェックし、明らかな

生ものがないことを確認した。再度蓋を閉じ、この時期は天然の保冷庫と化す廊下に

箱ごと出す。

 あとは、お目付役が到着してからゆっくり見るのだ。

 

「君、チョコに目がないんやなあ」今年は金曜やけど、週末やなくても二月十五日には

必ず来てくれはるもんな、と続けると、火村はこれ見よがしに溜息をついた。

「チョコレート目当てだと思ってるわけか」

「それ以外に何があるんや、甘党」

 まともに答えてやると、まあいいよ、とコンビニの袋から牛乳を取りだした。

「シンプルなチョコあるだろ。一個出せよ」

 包みのまま持ってこいよ、チェックするから。後で他のも全部見るからな。言いながら

薬罐を火にかけ、勝手知ったる棚からミルクパンを取り出す。

「ホットチョコレート作るんか」

「ああ。どうせ俺が帰った後は、そのままバリバリ食うだけだろ」

 甘い香りが立ち上り、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「君が来ると、まめなことしてくれはるから助かるわ」

「そうか」すこし得意なのか、鼻をひくひくさせる。

「君が甘党で良かった」

「ふん、チョコレートくらい、自分のもらった分でこと足りてるんだぜ。本命チョコって

年でもないし、総数も先生ほどではないがな」

「学生さんからの賄賂か」

「この期に及んでチョコレートに頼ってるようじゃ、ろくなもんじゃない。いずれにせよ、

季節のご挨拶みたいなもんだ。先生宛のチョコレートみたいに心はこもっていないさ」

 火村はいつものように、丁寧に包みをより分けてくれている。今のところ、危険な

ものはないようだ。

 昨今、知らない人間からもらった食品類は一切口にしないのが安全なのかもしれない。

しかし、ひとつの悪意をもって多くの気持ちを無駄にしたくないと言い張ったら、

お裾分けもらうついでにやってやるよ先生の目は節穴だからな、と余計な一言と共に

数年前から火村が選り分けを引き受けてくれるようになったのだ。

「珀友社の本は曲がりなりにも全国展開してるし、一応、人気商売やからな。

でもほとんどは登場人物宛やで」そういうわけで沢山あるし、そんな急いで

来てくれはらへんでもチョコは逃げへんよ、と続ける。

 火村は熱々のホットチョコレートに息を吹きかけるのをやめ、そっぽを向いて呟いた。

「くそ、気が気でないのは誰のせいだと思ってんだ」

 私は、狙い通りの反応に頬が緩むのを必死でこらえながら、聞こえない振りをする。

これも毎年のことだ。

 気が気でないのは、火村が選り分ける前の毒入りチョコを、迂闊にも私が食べるかも

しれないからか?

 それとも。

 

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某さんのお年賀状に書かれたSSをサイトアップして頂くひきかえ?に、お約束していた

季節ものSSです。なので、ツイッターにもDropboxからのリンクで上げました。

一応14日中には間に合いました。(その後、後出しで直しましたが)

総括としては、ともだち!ばんざい!

130214(0215サイトアップ)

Happy St. Valentine's day!

<どっとはらい>2013.02.15

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