【ルールは守れ】20年目になんとなく20のお題(アリスエキスポ☆2009配布お題)より
「近頃、愛煙家は肩身が狭い」 火村は、げんなりした様子でぼやいた。 「どしたんや。ゴーイングマイウェイ、天上天下唯我独尊、蛙の面にションベンの先生が」 「お前、仮にも小説家なんだから、日本語は正しく使えよ。最後のは明らかに用法が違うだろうが」 憎まれ口は叩くが、キレがない。大分まいっているようだ。 「ホント、君どうしたんや、風呂に入れられた桃みたいやで」 「それも不適切表現だな。そんな風に怒りまくれるなら楽なんだが」 混ぜっ返しても進まないので、無言で先を促した。 「今日、隣に座ってた女性が酷く咳き込んで真っ青になってるもんだから、声かけたんだよ。大丈夫ですかって」 「ええんやないの。フェミニストとしては、放っておけなかったわけや」 「普通、電車の中で近くの人が気分悪そうだったら誰だって声かけるだろうが。そしたら、近寄るなって 言うんだよ。煙いからって」 私は仰天した。普通電車の座席で煙草を吸うとは、随分と反社会的な行為だ。 「ルールは守れ。電車ん中やろ」 「いやいやいや、勿論そんなとこで煙草なんか吸うもんか。喫煙所がある車両ならともかく。そうじゃなくて、 俺自身が近寄ると煙草くさいから、煙いって言うんだよ」 「それは」無茶な話だ。 「また連れの女が、キーキー言うんだ、公共の場で煙草の臭いを振りまくのはルール違反だとか何とか」 それもまた極端な主張である。行きすぎた動物愛護家のようにヒステリックだ。 「うーん、所変わればマナーも変わるんやなあ。嫌煙家の間では、煙草の臭いが染みついた人間も嫌煙対象に なるんかな」 「マナーならまだ分かるんだがな、ルールじゃねぇだろ。俺だって、平和な時間を邪魔されたんだ。それを 言うなら、その連れの女もルール違反だろ」 「そんなルールはないわなあ」 「ルールとマナーの違いが分かるか」 文筆業を馬鹿にしてはいけない。私は、はきはきと答えた。 「ルールは規則で、マナーは行儀、やろ」 火村は、人差し指を立てて左右に振りながら、チッチッチと舌を鳴らして見せた。 今時みないレトロなジェスチャーだ。 「違うな、先生。愛があるかどうか、だ」 「つまり先生は、博愛精神に欠けるってことやな」 「その通りではあるな。偏ってるから」 ニヤッと笑う。 その顔は、ルール違反だ。いや、この場合、マナー違反、なのか?
<どっとはらい>大嶋貢/ハッピーアイズ! 2009.03.24 Copyright (C) 2009 OHSHIMA Mitugu. All Rights Reserved. http://happyeyes.jp/
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