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私の誕生日にはイタリア男もかくやと思われるエスコート振りを見せる火村は、

自分の誕生日には関心が薄いようだ。

すまじきものは宮仕、いやしくも教師の火村にとって、四月というのは目がまわるほど

忙しい時期であることは推して知るべし。

二十歳を越えて一回り以上の社会人が、新年度始まって間もなくの自らの誕生日を

忘れたとしても無理はない。

それにしてはゴールデンウィークを口実に私の誕生日は抜かりなく祝ってくれるわけだが、

それだけ私に関心があるのだと思えば、悪い気はしない。

約二週間前、新学期初日の早朝。

火村がベッドからそっと抜け出した気配に気づいて、着替えるのを

眺めるともなしに眺めていた。

脱ぐときは潔いくせに、見られながら着るのはどうも照れくさいらしい。

私の気を逸らしたいのか、問わず語りに言っていたのは春の学会シーズンで

うっかりダブルブッキングしてしまったとの失敗談。

朝東京で発表してとんぼ返り、地元の学会でも午後最後のセッションで発表だと

言っていたから、新学期の雑務に加えて発表の準備も佳境だろう。

 

案の定火村は、誕生日の前日すら連絡をしてくる気配がなかった。

フィールドワークのお誘いも。

臨床犯罪学者の臨場を賜らずとも世は全てこともなし。

大変結構なことである。

そんなわけで、つれないツレにサプライズプレゼントを仕掛けてやろうと、

私は重い御輿を上げて勝手知ったる北白川までやってきた。

夕方到着した時に留守だったのは想定内だ。恐らく、学生に邪魔されない静かな研究室で

思う存分データとたわむれているのだろう。マニアめ。

学者なぞ、所詮は我らミステリフリークと変わらない。

いそいそと仕込みに入る。

ただプレゼントを渡してもつまらない。

手のひらに包み込めるほどの小さな箱は、とある事情でラッピングをほどいてしまったから

手元にはきれいなリボンが残っている。(包装紙の運命は推して知るべし)

鼻歌を歌いながらキッチンに向かった。

——あにはからんや、冷蔵庫は空であった。

いや、空ではなかった。真ん中の棚に、マヨネーズがどでっと鎮座ましましている。

「ま、まあこれで勘弁しといたるわ」

タッパーウエアでも入っていればリボンもかけやすかったのだが、マヨネーズでは格好が

つかない。いつのまにか現れた桃の妨害も著しく(なぜ猫というものは紐状のものを

見逃すことをしないのか)結局シンプルに首の所に巻いただけ。

インパクトに欠けることおびただしい。

「ま、ええか」

細かいことにはこだわらないO型なのである。

都合の良いときだけ血液型占いを信じる振りをする程度にはまるくなった私は、

畳の真ん中にごろりと寝転んだ。

 

土曜だから、夜には帰ってくると信じて疑わなかった。

だからメールすら入れなかったのに、目覚めたのは明け方の寒さのせいだった。

いつもなら、しょうがねぇなと苦笑いしてふとんをかけてくれているはずの火村は、

気配すらない。

「ひ、むら?」

呼ばわっても無駄だと知っているのに、ひそめた声は空しくも襖に吸い込まれた。

誕生日の、しかも日曜日に。

自分の誕生日に関心がないとは言っても、私が祝いにくることは予想できるだろう。

毎年、二人で誕生日を祝ってきた。

ましてや、今日は私達がこうなって初めての——。

すうっと、悪寒が走った。

私は、もしかして浮かれすぎていたのだろうか。火村は、無言で私を諫めようとしているのか?

それとも、誕生日を一緒に迎えるべき誰かが他にいるとか?

居ても立ってもいられなくなり、それでも二つのプレゼントを持った私は、

そうっと下宿を抜け出した。

 

早朝の母校は、なんだかよそよそしい。

忍び足で歩くつもりもなく、勝手知ったる研究室に向かう。

私の知らない誰かと過ごしているのなら、研究室にはいないだろう。研究室にいるのなら、

早晩帰ってくるだろうからこんな早朝に出てくることはなかったのだ。

理性では分かっているのに、ポケットの小さな包みが私を操る。

約束を欲しがるなんて、本当に馬鹿げている。

分かっているのに。

 

ガチャッと無造作にドアが開き、頬が無精髭で少しざらついた顔がのぞく。

欧米人のように目を見開いてみせ、私の両手をゆっくりと見比べた。

「俺は、夢を見てるのか?」

「夢ちゃうよ」

右手には、リボンをかけたマヨネーズ。

左手には。

「俺も相当ヤキが回ったな。一晩くらいの徹夜でこれじゃ」

目の下の隈が、痛々しい。

「下宿の冷蔵庫の中にこれ入れとこと思ったんやけど。サプライズプレゼントな」

マヨネーズは、とりあえずポケットに無理矢理しまう。

「でも待ちきれずに本命持って来てしまってん」

リボンもかかっていない小さな箱だ。手渡す前に、待ちきれなくて自分で開けてしまう。

不意に、唇を塞がれた。もちろん私はこうなることを望んでいたし、予想もしていた

けれど、それは最も幸せなパターンだ。

O型は、楽天家だなんて誰が言った。

「学校の廊下やで」

火村は、箱の中からそっと、ダイアモンドでも取り出すようにキーホルダーを取り出した。

シンプルな、シルバーの。

私に押しつけていた唇をそっと離し、キーホルダーにつけた真新しい鍵に押しつける。

「構うもんか」

 

 

2012年4月15日 火村先生20回目のお誕生日に。

*********

上記は、以下の前後、アリス視点バージョンでした。

 

▼4月15日0時過ぎのお題ツイート

 

某嶋さんは、「朝の廊下」で登場人物が「裏切る」、「マヨネーズ」という単語を使ったお話を考えて下さい。

#rendai http://shindanmaker.com/28927

誕生日に騒ぐような年ではない。

年度末に誕生日の教授はポストに放り込まれるプレゼントという名の賄賂に辟易しているようだが、

履修届もまだの今の時期、そんな煩わしさもない。

興が乗ってうっかり研究室で徹夜した朝、一度帰ってシャワーでも浴びるかと廊下に出たら、

シュールなものが目に入った。

「俺は、夢を見てるのか?」

「夢ちゃうよ」

右手にリボンをかけたマヨネーズ、左手に小さな箱を持った——

「俺も相当ヤキが回ったな。一晩くらいの徹夜でこれじゃ」

目蓋を揉んでからゆっくり目をあけたが、同じ光景が目の前にあった。

「下宿の冷蔵庫の中にこれ入れとこと思ったんやけど」

右手をちょいと上げて「サプライズプレゼントな、」今度は左手を上げ

「でも待ちきれずに本命持って来てしまってん」

目元を紅く染めるアリスに、俺は。

「学校の廊下やで」

構うものか。

 

<どっとはらい>2012.04.15

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